黄昏の海

黄昏の海は
母のやさしさ
バラ色の愛情を
いっぱいたたえ
ホラ 波がなつかしい
子守歌を歌っている
友よ そのつかれた心を
柔らかな砂のしとねに
そっと横たえ給え
清らかな潮騒で
巷の汚れを
きれいさっぱり
洗いおとし
身を灼く懊脳は
海の底に投げこむのだ
ポツンと沖に浮かんでいる
あの白帆が
君の孤独を
わかってくれる
いま君が欲しいのは
優しいことばだけじゃないのかい

やがて しめやかに
星が舞い降りて
君を
心地良い安息の
揺籃に誘うだろう

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渇望

黄昏の渚で
  ふと拾った炎のかけらが
 心の中で
ぱちんとはじけた
 その時からなのです
海が白い牙をむいて
 怒ろうと
僕の涸いた魂は
 煌く水平線の彼方で
めらめらと
 燃えつづけている
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海の向こうに恋がある・・・
恋に夕陽が身をこがして
あわてて沈んでゆく
そんなに日暮れを
急ぐこたアないじゃないか。
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海と心

海の底には静かな湖がある
そこでは幸福が息をひそめている
人間嫌いの魚はいるが
心を噛む獣はいない
なおさら夢を砕くあほう鳥もいない
情熱にみちた都会の煤煙で

肉体の内側が真っ黒になると
僕はこの湖にやってくる
奇妙じゃないか
海の底だというのに
心地よい風が吹いているのだ
その風を帆にはらんで
炎熱の空の彼方に
さあ船出だ!

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無題

はじめて海に潜る朝
僕は長い間海を眺めていた
カジメの大きな葉が
海の底でゆらめいていた
澄んだ朝だった

僕が獲った小さなサザエ
そいつは
カジメの根っこに隠れていたんだ
まるで眠っているように
僕のはじめての獲物は
そんな小さなサザエがひとつ
そいつは
僕の掌の上でチーと小さくなっていった
僕はそいつを
そおっと海へかえしてやった

八歳の夏だった

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無題

夕焼けの美しさに
残照のきびしさが
恋の、胸のおもいの
真っ赤に燃えた
僕の青春があるのに
夕陽よ
恋を僕にくれないか
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若人よ

哲学の王座は化学に奪われ
混沌とした世の中を
旅人はさまよいつづける
沼には魍魎(もうりょう)のとぼす妖火が燃え
森には怪しく魑魅(ちみ)がともる
旅人よ迷わされてはならぬ
幾日も、幾日も、歩きつづけ
疲れただろうよ
けれど勇気をだして進むのだ
もうじき夜明けが来る
やがて正義の旗の下
劉亮(りゅうりょう)たるラッパの響きに
我等若人の
堂々たる進軍がはじまるのだ

若人よ妖火に迷わされてはならぬ

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無題

若者よ
この旗の下に集まろう
そして自由を叫ぼう

若者よこの旗の下に集まろう
――都会の舗道に
ふと素足を踏み出したくなるときに
孤独と、絶望のかげに捕らえられようとするとき

若者よこの旗の下に集まろう
――あなたはバラの花を咲かせ
そして自由と希望を分かち合うのだ

僕らの青春に

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遺稿

 僕は今まで主演作を14本撮った。その内「打倒」や「錆びた鎖」ぐらいをのぞいてはほとんど"殺し屋"や"暗黒街に生きる男"を演じている。暗い過去を背負い、人生に絶望している、虚無的(ニヒル)な男である。いきおい暗い感じの男になる。"拳銃無頼帖シリーズ"に「明日なき男」と言うのがあったが、僕が演ずる主人公はいつも"明日なき男"なのである。こういう男は、あまり現代にはいないだろう。僕は、まだ会ったことがない。

 その点、演技的にはむずかしいが、またそれだけにおもしろさもある。「抜き打ちの竜」以来、僕はいろいろと"明日なき男"のタイプを研究してきた。

 こういう映画ばかり出演していたせいか、赤木というのはいつも深刻な顔をしている男だと決めてかかってるファンもあるらしい。去年NHKのジェスチャークイズに出演したらとたんに「あなたがあんなに明るい人だとは思いませんでした」というようなファンレターがいっぱい来た。僕の笑顔を見たのは初めてというのである。

 それを見て、僕は思わず吹き出してしまった。僕だって当たり前の青年である。笑いたい時は大いに笑う。ただ、僕の演じる男が快活に笑うような男でなかっただけのことである。

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