「日本の森はなぜ危機なのか」 田中淳夫著 平凡社新書760円<税別>
以下はHPに載っていた、著作者本人がこの本について書かれたものの抜粋と目次である。
最初は森林問題を扱い、その希望ある未来を描きたかったのだが、結果的にそれは日本の林業問題を解決することではないかと考え、さらにそれは山村問題であり地域の問題、そして日本の社会システムの問題だということに行き着いたからだ。だから内容も、社会科学的アプローチになったと思う。森を自然物と捉えるだけでは、現実の社会と乖離してしまう。自然物であると同時に、資源でもあり人間社会の一部でもあるという視点が必要だ。また自然を守る行為は、持続的でなければならないが、そのためには人が積極的に森林に関与しなければならない。それならば経済的に森を捉えた方が、わかりやすいしうまくいくはずだ。
第1部では、森林と林業の歴史、人間との関わり方から「危機」の実相を追求した。第2部では、林業の現場で起きている新しい動きについて紹介した。そして第3部では、社会システムとしての変革すべき点を提案した。そのうえで原点にもどり、「森林はなぜ危機なのか」という部分に立ち返る。
本書は、一見森林問題というより林業問題にシフトしたように見えるかもしれない。しかし私は、森林と林業を分けて考えること自体に無理があるのではないかと思っている。そもそも「林業」とは何か、と考えてみると、木材生産だけではないのである。木炭を焼くのも、焼畑も、山菜取りも、森林浴さえも林業の一形態ではないか。森林を人が利用することが森林の産業化であり、それが林業だと言えるのではないか。そして人間も森林生態系の一員ではないか。
だから私にとって、本書は現代林業に関する考察の集大成にもなっている。
目 次
はじめに−−森林と林家のためにできること
- 森林危機の本当の姿
- 森林危機には2種類ある
- 木を売らなかった林業
- 林業の成功、林産業の失敗
- 林業の不振は外材のせいか
- 世界最古、吉野林業、誕生の秘密
- 林業没落の一九六〇年代
- 森林ボランティアは森を救えない
- 林業を環境産業に変える
- 間伐しなくても森は育つ
- 植えなくても木は生える
- 日本の焼畑はハイテク技術だ
- ウシが下刈りしてくれる造林地
- 材質を5分で変えるIT革命
- 紙から木をつくる究極のリサイクル
- 森林認証制度が環境と経営を守る
- 日本が変われば森林も変わる
- 山村ファンをつくるシステム
- 長期伐採権制度で森林経営を
- 近くの山の木で家をつくる運動
- 木の家は本当に高いか
- 「森のゼロ・エミッション」構想
- 林業ベンチャーが森林を救う
あとがき 森林問題のアンチテーゼ
章立てを見ればわかるとおり、かなり挑発的なところがある。「林業の成功、林産業の失敗」「森林ボランティアは森を救えない」「間伐しなくても木は育つ」などである。この題名に惹かれて読んでいくといい。実例を挙げながら書かれているのでわかりやすい。また「日本が変われば森林も変わる」のところはぜひ一読を。私の興味からいうと「近くの山の木で家をつくる運動」「木の家は本当に高いか」などは材木屋でも出来る訴えかただと思う。
田中さんの主張は、森を守るためには、伐採してエンドユーザーに買ってもらって、その売上で木を植え、育てるという循環を作る必要があるということ。
林業が経済的に自立し、環境にも優しいシステムに変わることが人間社会と森林の両方を豊にすると書かれている。
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