「木と森の快適さを科学する」 宮崎良文著 林業改良普及双書 NO.139 社団法人 全国林業改良普及教会発行 定価923円<税別>
目 次
序 章 快適とは、人と自然の同調状態
第一章 快適性や感性をどう考え、どう測るのか?
- アメニティーの考え方
- 感性の考え方
- 健康の考え方
- 日本人の自然観
- 快適性の測り方
第二章 五感を介した木材の快適性
- 木の香りを嗅ぐと
- スギ樽貯蔵ウィスキーの味と香り
- ホルムアルデヒドを吸うと
- 木材に手で触ると
- 木材に足で触ると
- 木材を見ると
第三章 森林浴の効果
第四章 木材とダニ
終 章 生理人類学からの提言
あとがき
著者宮崎良文氏は、木と人間の関係を科学的に解明しようとしている科学者のひとりであり、森林総合研究所に務めている。従来経験的に知られていた森林や木材の快適性増進効果を脳活動や自律神経活動指標を用いた科学的データの蓄積を通じて明らかにしていこうとしている。
宮崎氏は快適性を「自然との同調」と定義して、その快適な状態において、人間の身体に何が起きているのかを探る。快適性を測るために人の状態(脳の中の血流量が増減することや血圧の上昇や落ち着き、また脈拍数が上がる場面、安定している場面など)を測定している。それを彼が属していた研究所の名前をとって森林総合研究所方式快適性評価法と名づけている。この実験は三つの指標を用いて行われている。「生理応答指標としては、中枢神経系と自律神経系が大きな柱となる。それに加えて主観的評価を傍証として用いる」としている。
第二章において実際に木材の快適性を実証している。
いくらかこの本から引用してみよう。(72ページから)
「以前に、木材(スギ、ヒノキ挽き材面)、布(シルク、デニム)、金属に閉眼にて接触した時の血圧、脈拍数、瞳孔径を測定したことがある。当然の結果であるが金属への接触においては(収縮期)血圧と瞳孔径の増大を認め、ストレス状態になる事が分かった。一方、木材とシルクへの接触においては暖かさや落ち着きを感じるとともにストレス時に高まることが知られている交感活動神経は昂進しないことが観察された。
しかしこの内容を発表した時に、比熱が違うのだから木材は暖かく、金属は冷たく感じ、このような結果になるのは当り前であるとのご批判をいただいた。そこで、厳密に同じ条件、にすることは出来ないが、木材は冷蔵庫にいれ、金属はホットプレートで暖めてほほ熱的には同じ条件にして接触実験を行った。・・・」
主観評価としては暖めた金属は“快適で”“人工的な感じ”、冷たい木材は“不快である”と評価された。生理応答としては暖めた金属では収縮期血圧の上昇は抑制されており、快適であるとの評価と一致していた。
一方冷やした木材は当初血圧が上昇すると予想されたが、木材(ナラ材)への接触は血圧の上昇をもたらさず、ストレス状態を生じさせないことが分かった。男子学生13人による実験結果からではあるが、人の身体が自然対応に出来ているので、不快感はあっても、ストレス状態にまで移行しなかったと宮崎氏は考えている。
このような話がたくさん続いている。「ホルムアルデヒドを吸うと」の所では宮崎氏を含めた20代、30代、40代の実験者自身が被験者となって吸ってみたと書かれている。いやはや科学者も大変である。その結果は、血圧が上昇し、末梢血流量は減少し、脈拍数は増加し、瞳孔径が増大するという典型的なストレス状態を示した、としている。生体への悪影響は間違いないものであろう。
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